Kontaの歓びの毒牙

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ユーミン帝劇 成功に導いた藤真利子

 観てきました、帝国劇場舞台「Yuming sings あなたがいたから私がいた」 。作品としては悪くない、というか、僕は気に入りました。東京まで観に行ってよかったと思います。

 

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Mariko Fuji 藤真利子 Vivi Enleigh 微美杏里 1985

 

 そして、この作品の成功の理由ですが、それはやはり藤真利子さんだと思います。もちろん、ユーミン(松任谷由実)が歌うシーンが良いのはいうまでもないのですが、ドラマの部分では、もう真利子さんが圧倒的に素晴らしかったです。

 

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 作品のハイライトは、個人的には「残されたもの」で園子(藤真利子)がさまよう場面と、やはり、春子(福田沙紀)が残した絵を園子が教会で受け取り、しばらく歩いてそしてくずれ落ちるシーンでした。「残されたもの」の場面では、園子が一人ただひたすら歩いているだけなのですが、それでもこの作品で、一番と言ってもいいほど強い印象を残す場面になりました。ユーミンの「紅雀」を最も好きなアルバムとして挙げている真利子さんだからこその、何か強く伝わってくるものが、そこにはありました。

 

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Mariko Fuji 藤真利子 Vivi Enleigh 微美杏里 1985

 

 色んな小ネタを数多く盛り込んでいるにしては、軽めで隙間のあるマンタ(松任谷正隆)さんの脚本が、ストレート・プレイでもミュージカルでも、単なるコンサートでもない、 ‘新たな試み’ のこの作品に、マッチしているように思います。スカスカしている部分の一部をユーミンの歌が埋め、そして残ったところを観客自身に描かせる…という作品なのではないかと感じました。

 

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 ただ少し残念だったのは、若い時代の脚本がちょっと弱く思われたことです。園子(比嘉愛未)と栄一(渡部豪太)の恋愛をリアルに見せる何かもうひとつのエピソードがあれば、より良くなったと思いますし、春子の、実は園子が大好きなのだけどキツイ態度でしか園子に接することが出来ないという、その ‘どうしようもなさ’ の描写、そして園子はダンサーになるぐらい踊りが得意なのですから、比嘉さん自身の踊りで観客を魅了する場面があったなら、もっとずっと観る者が入り込める真実味が生まれたのではないかと思います。踊りが別のダンサーのシルエットで描かれるというのでは、やはりどうも説得力が弱くなってしまいました。こういった弱点が、なんとなく箇条書き的な脚本という印象を与えてしまうところがあったかもしれません。

 

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 園子、栄一、春子の若者3人の役は、「脚本自体が少々シンプルすぎ、でもセリフで述べられる細かいエピソードは満載、それを短い時間内で演じなければならない」というかなり多くのことを役者に要求する役どころで、演じる方にとっては、ちょっと人物像が掴みにくく、決してやりやすいものではなかったかもしれません。実際、若者3人の人物は、年寄り3人、園子、信二(石黒賢)、妙子(入絵加奈子)よりもずっと複雑で難しい役だと思います。若さがまぶしい3人ががんばって演じていましたけれど、やはりちょっと散漫で印象が薄くなってしまった部分があったように思います。両親の突然死、親戚との軋轢、記憶障害、幼なじみとの三角関係、子供の生めない女性、暴行事件による男性恐怖症、出征、恋人の集団暴行死、妊娠、未婚の母、米兵相手のオンリーさんもどきの踊り子、そして里子…という、かなり詰め込まれたエピソードをすべて消化できるほどの時間的余裕が、2幕3時間の舞台になかったのではないでしょか?

 

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 僕が藤真利子さんが素晴らしいと思ったのは、老人ホームで車椅子に乗りながらも、両腕を挙げた時の真利子さんのポーズが、完璧に美しい、ダンサーの腕の動きになっていたことなんです。こういったものが作品に真実味、奥深さ、説得力を生むのです。

 余談ですが、先日、あるお友達と食事に行った時に、彼女が教えてくれた話がとても興味深かったです。それはその方のお友達が昔、デザイナーの松田光弘さんのパーティーに出席されたことがあって、その時、藤真利子さんもその場に来られていたというエピソードでした。 他に誰も踊っている方はいなかったのですが、真利子さん一人だけが、そのパーティーで踊られたらしく(この辺、さすが「かっ飛び女優」ですね)、その踊りがまた普通見ることがないようなダンスだったという興味深いお話でした。ダンスが好きで得意という真利子さん、きっとものすごく素敵だったんだろうな、と話を聞きながら、目の前にその場が浮かび上がったような気がしました。

 そして今回の作品、カウンセラー信二役の石黒賢さん、色ボケ老人の妙子役の入絵加奈子さんという他のシニア組の方々もそれそれ素晴らしい好演でした。彼らにはやっぱり長年のキャリアに裏打ちされた深みが あり、そこに奥行きを感じさせるものがありました。信二と年老いた園子のシーンには、ラナ・ターナーが主演した僕が大好きな1965年のアメリカ映画「母の旅路 / MADAME X」を ちょっと思い出したりもしました。

 

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 そして、今回選ばれていたユーミンの歌が、又とてもよかったです。「守ってあげたい」「春よ、来い」「卒業写真」などの超有名曲を混ぜながらも、マニアにも十分アピールするような素晴らしい選曲だったと思います。まったく申し分ありません。ユーミンの最も特徴的な持ち味って、こういった淡い色合いの曲にあるのだと個人的には再認識しました。ユーミンの作品を知り尽くした専属のプロデューサー兼演出家がいるというのが、やはりユーミンの最大の強みかもしれません。それに今回、ユーミンの声がすごくよく出ていて驚きました。2012年のプロコル・ハルムとのツアー時などは、かなり厳しい(それでも感動的な)ヴォーカルに思えたりしましたが、歌っている曲が違うこともありますが、今回の帝劇はとても安定していました。それに立ち姿のスタイルの良さが本当に際立ってました。遠目にこんなに美しい60歳ってどこにもいないと思います。その日の観客に多かった50代、60代の女性の「くたびれ具合」を目の前にしていたので、なおさらそう思えたのかもしれません。

 

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 マンタさん、ユーミン藤真利子さん、この3人は、僕がずっと特別に大好きな3人なのです。その3人が関わった一つの作品をこうして観れたというのは、本当に感激しました。これはちょっと思い入れ過度で、センチメンタリズムに走り過ぎてる感想かもしれませんが…。もうちょっと冷静に書くと、次回もしユーミン帝国劇場第3弾があったとしても、今回のように藤真利子さんが出演されていなければ、東京まで果たして観に行くだろうか…と自問してみると、答えは微妙です。ユーミン自身を見る聴くのであれば、正直言ってやっぱり通常のコンサート・ツアーのステージの方が魅力的に思えます。近場で、この帝劇の舞台と同じ内容での上演があれば行く可能性はあるかもしれませんが、ほとんど興味のない俳優さんの出演している「ちょっといい芝居」つきのユーミンのステージを東京まで、交通費を使って観に行くのだろうか?…… やっぱりそれは行かないと思います。ハッキリ言って、今回は「藤真利子さんが出てるから、真利子さんがスゴいということを知っているから」東京まで観に行ったのであると言えるでしょう。つまり、今後のユーミン帝国劇場舞台の課題はそういうこと(どういうことかは、まあ、ぼやかしておきますわ。ここまで読めば大体わかりますよね。)でしょう。

 

 そして最後に、真利子さん、この帝国劇場公演が終わった途端、また「松任谷家出入り禁止!」にならないように今度は十分気を付けましょうね。少しお酒は控えられた方がいいのかもしれませんよ…(エヘヘ、余計なお世話だったでしょうか?)。

 

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帝劇舞台成功に、かんぱ~い!!

 

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脚本・演出:松任谷正隆 帝国劇場 2014年10月8日(水)~31日(金)
Yuming(松任谷由実 / 荒井由実) sings...「あなたがいたから私がいた」:

 “純愛物語 meets Yumingの第二弾は 3 人の幼なじみの物語。 人生の中に起こる様々な出来事を通して変わっていく 3人の人生 、友情、恋愛、そして別れ…。 そんな時間の流れをユーミンの曲とともに辿っていきます。
 今回は時代を少しさかのぼって、戦争という異常な時代が背景。ガラスの心と、恐怖の影が、美しいコントラストを見せていきます。ぜひご期待ください。”

http://www.tohostage.com/yuming/

 

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