もう30年近く前になりますが1985年に、大学の講義で「映画演劇論」というのを取っていました。教授はF先生という方で、授業を受けていてなんとなくピンとくるものがあったんです、「この先生、ゲイじゃないか?」と…。こういうのをゲイダー(ゲイを感知するレーダーのことよ)と言うのですよね。先生の授業が好きで、一年間休まずに全講義に出席しました。先生の専門は歌舞伎だったと思うのですが、その講義の中で9月に2週に渡り取り上げられた「能の芸術論」というテーマが、特に僕の印象に残りました。観阿弥、世阿弥、「風姿花伝」、「真(まこと)の花」への七段階…等、その中でも「時分の花」という言葉は、その後もずっと忘れることはありませんでした。
ところで、NHKのEテレでやっている「100分de名著」という番組が僕は好きで、毎回楽しみに見ています。今年(2014年)1月に採り上げられたのは、世阿弥の「風姿花伝」でした。大学で受けた授業のこともあり、今回は特に興味を持って、全4回の放送を見ていました。その内容はもちろん素晴らしかったのですけれども、それ以上に、僕が強い印象を受けたのは、この4回の放送の中でコメントしていた、明治大学教授の土屋恵一郎さんの着ていた服なんです(和服、ちょっとカジュアルな服、そしてスーツが2回)。その服装に惹かれるというのが、なんとも僕らしいところなんですが、土屋恵一郎さんの決してやりすぎていない、程よい、大変趣味の良いおしゃれに目を見張りました。「こんなにおしゃれな人、普通じゃないよね?」(←ホメてます)と思って、「一体、どういう人なの?」と興味を持ち、放送後ネットで検索することになりました。
そして、ネットで調べてみたら、やっぱり僕の興味を引きそうな本がいくつか出てきました。早速「100分de名著」テキスト 2014年1月号「世阿弥 風姿花伝」と、土屋さんが編者として関わられた「ホモセクシュアリティ」、土屋さんの著作の「独身者の思想史」の3冊を取り寄せて読んでみることにしました。
「ホモセクシュアリティ」はイギリスの古い論文を集めたものなのですが、ジェレミー・ベンサムの文は、原文がそうなのか日本語訳がまずいのか、表現が回りくどくて何を言っているのか正直、解りづらかったです。ハブロック・エリスの論文は、同性愛がそういう風に考えられた時代もあったのかという、歴史的な記録としての価値はあるんでしょうが、今さら読んでもそれ以上のものはない気が…。それに比べ、ジョン・アディントン・シモンズ、エドワード・カーペンターの二人の論文は、ゲイという立場をはっきりと表明して書いてることもあり、今読んでもものすごくパワーをもらえる論文でした。シモンズ、カーペンター、それにドイツのウルリッヒス、彼らがいたから今現在の僕ら(ゲイ)がいるということを改めて強く認識しました。
(これは雑誌「ELLE」(British版) 1988年5月号の24~29頁に掲載されたイギリスの地方自治体条例28条に関する記事。)
僕自身がこういったゲイ関連の書籍に興味を持って色々読んでいたのは、30年~20年前で、ゲイ・リブにも少し関わっていたのも20年ぐらい前ですが、その頃は、同性婚がこれ程世界的(というか、欧米で)に認められつつある世の中が、20年後に来るなんてことまったく想像もしませんでした。時代は確実に動いてるんですね。でも「タダ乗り」はいけませんよ、そこのア・ナ・タ! 何もしないで、与えられるものなどないのですから。
著作「独身者の思想史」の中では、「独身者の熱烈な友情」と「同性愛をめぐるディヴィッド・ホックニーとジェレミー・ベンサム」がとりわけ面白かったです。“人が「反自然」といい「不純」という時、そこで意味されていることはその言葉をつかっている人間の感情にすぎない”、そう、反自然という言葉で表されているのは、単にその人の不快感にすぎないんですよね。この言葉は何か人に不当なこと言われた時、斬り返しに使えるぞ!と思って読みました(この辺、まだまだリブガマですよ、俺は)。またホックニーが抗議した条例二十九条(二十八条) 、ボーイ・ジョージが歌「ノ-・クロウズ 28 / NO CLAUSE 28」で反対を表明したやつでしたよね(この28条は2003年に廃止)。団体のStonewallが結成されたり…。当時の事を色々思い出しました。
「独身者の思想史」のあとがきに“思想史のレベルで同性愛の問題をあつかうことは…(中略)…思想史研究家の心理上の壁があったのだ。”とありますが、こういうテーマを扱うことは大変勇気のいることです。20年も前ならなおさらそうだったと思います。“思想の肉体をつかまえてみなければ、観念の輪郭をとらえることはできない”、まさしくその通りだと思います。
土屋恵一郎さん自身は、独身者ではなく奥様がいらっしゃるそう(え、ちょっと残念…)ですが、それもあまり関係ないです(たぶん…)。その服装に惹かれて、人物に興味を持つ…、装いって何かのメッセージを発しているものですよね。僕はやっぱり素敵な服を着た男が好きですわ(って、結局そこかいっ!)。でもいいでしょう、それが僕なんですから。土屋恵一郎さん、これからも注目してますよ。
大学時代の話を書いたついでに、もうひとつ大好きだった講義についても書いておきたいと思います。1983年に受けていた「西洋文学」で取り上げたバルザックの「人間喜劇」の中のゲイの登場人物、美青年好きで不死身の大男ヴォートラン(「ゴリオ爺さん」「幻滅」「浮かれ女盛衰記」の3作品に登場)に関する講義です。担当は山田教授という方でした。阪神淡路大震災直後にお亡くなりになったそうですが、山田先生のこの講義が大変楽しく、大学で本当に好きなことを学んで知るという充実感を、僕は味わったものでした。少し前に当時のノートを久々に見直して、またバルザックの作品も読み直してみようかと思っている、今日この頃の僕ですわ。
100分de名著「風姿花伝」:
http://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/29_fushikaden/
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