Kontaの歓びの毒牙

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ユーミン 私のフランソワーズ・アルディ 対談 その2

私のフランソワーズってデカいのね

以下雑誌「フラウ/FRaU」1996年10月22号(No.123)の63頁から68頁のカラー全6ページからの抜粋です。

取材・文/小野綾子


  • フランスの文化とはせめぎ合う個性の賜物である


 セルジュ・ゲンズブールフランソワーズ・アルディのために訳詞し、大ヒットとなった曲『さよならを教えて』は、もう原曲が誰のものであったのか(注:原曲はMargaret Whitingが1966年に米国で発表した『IT HURTS TO SAY GOODBYE』、翌1967年には英国のVera Lynnもカバー・ヴァージョンを発表) も思い出せないぐらいにアルディのものになっている。また、出演した映画『スエーデンの城』(1962年)は、フランソワーズ・サガンの原作によるものだった。彼女の歌にはレッド・ツェッペリン参加前のジョン・ポール・ジョーンズが制作に携わり、ボブ・ディランが心酔し、そして言うまでもなく、世界中に浸透した。
 当時の名だたるクリエーターが、こぞって接近を試みた人物―それがアルディだったのだ。
 けれどその伝説めいた経歴など“まるで無関係”とでも言うように、屈託なく、よく笑う。ユーミン相手に、身を乗り出して。もしかしたらその無垢なスタンスが、クリエーターの食指をそそったのかもしれない。クリエーター・ユーミンの興味が、糸口を探り出す―。


ユーミンマルコム・マクラーレンASIN:B000005CEW なんかと一緒に仕事をされたことがあったでしょう? 実存主義にもう一度憧れる世代というような距離感で。あの感じのパリがカッコよかったんですよね。
アルディ:当時のパリはジャズが流行っていてね。
ユ:フランソワーズ・サガンの原作の映画にも出演していらっしゃるけど、実際に会ったサガンというのはどんな感じの方だったんですか?
ア:映画の撮影の時には会えなくて、実際に会ったのは70年代になってからだった。曲の詞を書いて欲しいと思って行ったの。でもコミュニケーションを取るのがすごく難しい人だと思ったわ。
 フランスでは、よくテレビで風刺を効かせた人形劇をやっているんですよ。それでサガンが出てくると、必ずその下に字幕が出ることになっている。とてもわかりづらい喋り方でね。誰にもよくわからないから(笑)。
ユ:日本では、紹介された本がすごい反響だったんですよ。私より少し上の世代では、サガンを愛読書として持っていた人がたくさんいた。それでライフスタイルにも影響を与える人なのかと想像してたんだけど。
ア:フランスでもとてももてはやされて、若い世代にはよく読まれていたわよ。でも影響という点ではどうかしらね。私の曲についても同じだと思うけど、小説や曲そのものに影響されるのではなくて、その中に自分を見いだし、同化するんだと思うのよ。影響というより、似た者同士でつながっていくんだと思うの。
ユ:私はアルディさんに“影響”されたと思うな。『もう森へなんか行かない』では、まず、恋愛の詞のレトリックに衝撃を受けた(注:『もう森へなんか行かない』はギ・ボンタンペリの作詞作曲で、アルディ自身は作詞していない)。自分にとっては大事な時期だったんですよね。以来、違う題材で作る時にもレトリックを使うようになった。
 別の曲で、“金魚鉢の中にざりがにを入れる”ってフレーズがあったでしょう?(注:アルバム『アルディのおとぎ話』ASIN:B0000070QH に収録されている曲『蟹と金魚のお話 / LE CRABE』のこと) 愛の世界の中にわざと波風を立てるみたいなレトリックとして。それまで、日本のポップスには月だの星だの愛してるだのというフレーズしか見たことがなかったから“おお”と思いましたよ。
ア:あれはジュリアン・クレールが書いた詞だったのよ(注:正確には、ジュリアン・クレールの曲の多くに歌詞を提供しているエチエンヌ・ロダ=ジルの作詞)。でも私もすごくおもしろいと思った。きっと大ヒットするだろうと確信していたのに、フランスでは全然ウケなかったの。
 気に入ってる曲は、なぜかフランスではウケない。でも日本に来たら、そういう曲の話が良く出るの。あなたが言ってくれたようにね。一部には共通なものを持っていてくれている人がいたんだと、嬉しかったわ。


(参考)

『蟹と金魚のお話』


金魚鉢の中に蟹を入れた
2匹の魚が退屈していたので
金魚鉢の中に かにを入れた
2匹の魚が退屈していたので
もじゃもじゃした藻草の間で
2匹とも平穏無事の毎日を
だのに 金属製の2つのはさみが
今では 2匹のうろこを傷つける


2本のレモンの木を植えた
大いに にがいそれを家の中に
それから その根をちょん切ったので
その木は もう 理由もなく生えている
私の金魚鉢と果樹園は
私の優しさの見本です
幸福が完璧であるようにと
あなたの胸の中に蟹を入れた


そして そのよちよちガニマタが
時間の流れを 変えている
あなたは もとのようになったけど
それは 蟹のはさみの命令です
そして またいつか退屈したら
ちょうど我慢ができなくなった時に
あなたの心を金魚鉢の中に捨てましょう
うろこだらけの その心を


金魚鉢の中に蟹を入れた
2匹の魚が退屈していたので……


(上記の訳詞はLPの歌詞カードより抜粋 訳者不明)


ユ:詞を書く時に、知らず知らずのうちに、アルディさんの詞を思い浮かべていたことがあったんですよ。たぶん、その時の私って同じような心情になっていたんですね。
ア:そういうこと、私も若い頃にはよくあったわよ。好きなフレーズや情景というのは、いつの間にか自分の中に入っていたりする。後になって“似てたかな”と思うことはあるんだけど、別に真似しようとしてやってるわけではないの。
 でも、音楽っていうのは、自分だけのものというわけではないから(笑)。
ユ:私にとっては、西のフランソワーズ・アルディ、東のジョニ・ミッチェルというぐらいに、存在の大きな人だったんです。
ア:名前は知ってるけれど、その人、あまり知らないわ。
ユ:日本にいると、情報がよく入ってくるから、東も西もよく見えるんですよ。
ア:もちろん、フランスでも彼女を知ってる人はいるのよ。でも…、私はブレンダ・リーの時代なの。トシがわかるから言わなかったのだけれど(笑)。
ユ:私が勝手に思っているだけなんだけど、よくアルディさんがあげていらっしゃる好きなアーティストというのは、どこか浮遊感があるというか、フランスっぽい陰影を感じてしまうんですよね。                 
ア:自分の世界を持っている人が好きなのよ。そして自分と共通のものを持っている人が好き。やはり個性というのは、とても大事なものだという気がしない?


その3につづく
http://k0nta.hatenablog.com/entry/20120123


Paris

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It Hurts to Say Goodbye

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「もう森へなんか行かない / Ma Jeunesse Fout L'Camp」の作者ギイ・ボンタンペリ(Guy Bontempelli)が歌うヴァージョンは、こちらのCD「パリ祭」↑に収録されています。