Kontaの歓びの毒牙

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ハロルド・ピンター 「ザ・コレクション」

実は扉の影から二人を盗み見てるハリー

 もう嬉しすぎ!20年以上前からずっと"もう一度観たい"と思い続けていた作品(1976年 イギリスTV)のビデオを、先日海外の方との物々交換でとうとう入手しました。「LAURENCE OLIVIER PRESENTS : THE COLLECTION」というもので、日本では1984年8月18日の土曜日の夜にNHK教育で「ザ・コレクション」のタイトルで、一度だけ放映されたことがある64分の中編作品です。監督は「アガサ/愛の失踪事件」(1979年)のマイケル・アプテッド(Michael Apted)。その時は放映後に、どこかの大学の教授?(だったように思う…)による日本語解説もついていました。その方の話から、この作品が「召使」(1963年)、「できごと」(1967年)、「恋」(1971年)、「フランス軍中尉の女」(1981年)などの脚本家ハロルド・ピンター(Harold Pinter)の作品だと、当時知ったのでした。それからピンターの作品に興味を持ち、大学時代には、ピンターの作品を扱っている授業にこっそり忍び込んでいたこともありました。
 出演は、ローレンス・オリヴィエ(Laurence Olivier)、マルコム・マクダウェル(Malcolm McDowell)、ヘレン・ミレン(Helen Mirren)、そして僕が昔から大大大好きなアラン・ベイツ(Alan Bates)という4人。正直言うと84年にテレビで観た時は、ヘレン・ミレンってまだ知りませんでしたが、今回見直して、そうだったのか〜と認識を新たにしました。そしてヘレンが若い時こんなに美しかったというのも、再見してビックリ。だって今じゃやっぱり「鬼教師ミセス・ティングル」(1999年) のイメージでしょ?まあ、いずれにせよこの作品では中心は3人の男優なんですけどね。

 物語は、ロンドン高級住宅街の豪邸に、ハリー(オリヴィエ)が午前4時に帰宅するシーンから始まります。家に入るとすぐ電話のベルが鳴り、ハリーが受けると見知らぬ男からビル(マクダウェル)宛てにかかってきたものでした。ビルはハリーと同棲している若いファッション・デザイナーで、電話をかけてきたのはジェームズ(ベイツ)という中年の男。翌日、ジェームズは強引にハリーとビルの家へ押しかけて来ます。その前の週、英国の北部の都市リーズ(Leeds)ではファッション・ショー(タイトルの'コレクション'はここからきている)が開催され、ロンドンでブティックを開いているジェームズの妻ステラは、その地を訪れていました。同じくデザイナーのビルもリーズに来ており、二人は同じホテルの同じ階に滞在していたのです。ジェームズは妻ステラから、'その時そこでビルと知り合い関係を持った'という告白を受け、怒鳴り込んで来たのです。
 最初、ステラとは会ったこともないをと否定していたビルですが、その後、彼の話は二転三転し、また心配した'パトロン'ハリーがステラを訪問した時、彼女がハリーに話すことも、夫のジェームズに言った内容とはまったく食い違っているので、このドラマを見ている観客は、ビルとステラが本当に関係を持ったかどうかはおろか、実際に二人は会ったことがあるのかどうかさえも不確かなまま、それでいて二人の間の出来事の瑣末な部分が妙に詳細に語られるためますます煙に巻かれたまま、この映画にどんどん引き込まれていってしまうのです。
 それに加え、なんと言ってもこの作品の最大の見どころは、ハリーとビルのカップルの間に、ジェームズという魅力的な男が入り込んでくることで生まれる、性的な緊張感でしょう!!(もうピリピリなの)。明け方に見知らぬ男からビルに電話があった時から、すでにハリーは嫉妬にさいなまれているようです。スラム街で拾ったビルを囲い、ひとかどのデザイナーにまで育てあげたハリーの心配は、ステラとビルとのリーズでの情事というより、妻のことでビルを訪ねてくるようになったジェームズ…(むふふ)。

 もうこの、オリヴィエ、マクダウェル、ベイツ3人の演技、素晴らしすぎ!!めちゃくちゃにスリリングでバチバチ火花を散らしまくります〜。オリヴィエって、映画でいつも'コワい顔'してるのでそれまであんまりいい印象なかったのですが、この'ちょっとオネエさん入った役'の彼が僕は大好きです。オリヴィエはこの作品は製作も担当するほど熱の入れようで、舞台作品を観てよっぽどお気に入りだったのでしょう、テレビ化の企画も彼から出されたようです。またマクダウェルも台詞がないシーンでの顔の微妙な表現など…ホントに最高です。いい俳優ですね〜。そしてアラン・ベイツのセクシーさ!(単に僕の好みというのもあるかも)。3男優の魅力炸裂ですよ。
 この作品、1960年の'ベスト・プレイ'に選ばれたそうなんですが、40年以上も前に書かれたっていうのもすごくありません?それと、このテレビ作品以前、1962年にラジオ・ドラマ化もされたことがあるそうで、その時ビルを演じたのがなんとアラン・ベイツ*1、そしてハリー役はハロルド・ピンターご本人で、ステラ役が当時のピンターの奥さんというから、これまた興味深いですね〜。ちなみに日本では1988年に舞台で上演され、その時のステラ役は竹下景子さんだったそうです*2
 同じくオリヴィエとベイツというキャストで作られた「わが父を巡る航海/A VOYAGE ROUND MY FATHER」という1982年のテレビ作品があり、こちらは1984年にNHKで放映された後、1986年には再放映もされているのに、作品的には段違いに上と思われるこの大傑作「ザ・コレクション」が、その後一度も再放映されていないのはどういうわけなんでしょう(怒)。この作品、日本でも昔ビデオで発売されたことがあるらしいですが、中古でみかけたことは今迄ありません。こんな作品が人々に知られないでいるなんて、惜しすぎます(号泣)。ぜひぜひ日本でももう一度、字幕つきでソフト化してください!!(まだDVDプレーヤーもってないけどさっ)。

おまけ:"字幕なしビデオでも見たい!"という方はKontaまでメールを。

(参考 1988年日本版舞台)
ハロルド ピンター ”コレクション”
1988年4月5日~4月24日 銀座セゾン劇場
作 /ハロルド・ピンター
訳 / 喜志哲夫
演出 / 高平哲郎
企画・製作 / 銀座セゾン劇場
ハリー : 成田三樹夫
ジェイムス : 蟹江敬三
ビル : 嶋田久作
ステラ : 竹下景子